後にレイクリス教の十二使徒、聖スヴェルトとして列せられる青年であるが、生まれは知れない。孤児として育ち、悪霊に支配された現在のリヴァイレッドの土地で同じ境遇のものたちを集め寄り添うように生きていた、と言うのが彼が史実に登場する最初のくだりであり、多くの歴史書の見解のようである。貧しいスヴェルトは信仰に篤く、僅かな神聖魔法が使える身であったために邪教の魔物がはびこる中教会に暮らし、神の国に召されたこの地の人たちが辱められることのないように墓守として亡骸を守るという生活をしていた。そんな彼がレイクリスに出遭ったのはレイクリスが彼の住む地を訪れた時のこと。貧しい生まれで字も読むことができず、死者と常にある墓守という職業であった彼は初めレイクリスの前に出ることを避け逃げようとした。しかしその時のレイクリスの言葉は「恥ずべきことはなにもない、あなたの信仰は立派だ。」であった。それ以来彼はレイクリスの弟子となり、その旅に付き従う事となる。勝ち戦のときも大敗の時も。戦場には常にレイクリスを守る彼の姿があった。
しかし運命の日はやって来た。いよいよ戦いが激化したとある日、彼がずっと守ってきた教会が遂に戦火に晒される。彼はレイクリスに無理を言い自分ひとりでも良いから教会一帯を守らせてくれるよう頼んだ。レイクリスはその願いを聞き入れ彼を行かせた。次の夜明けまで持ちこたえなさい。そうすれば必ず私が駆けつけるからと。住民、旅人、孤児、生きとし生けるものを集められるだけ教会に集めて彼は結界を張った。夜明けにはレイクリス様が来てくださる、ただそれを信じて彼は悪霊に囲まれた教会の前で力を使い続けた。彼の結界は正に聖域の如く何者の侵入も許すことなく夜明けを迎え、約束どおり駆けつけたレイクリスたちによってその教会は救われる。誰もが立ち尽くす彼に感謝し、彼を称えようと駆け寄ったが、その時スヴェルトは既に此処にはいなかった。持てる全ての力を使いきり神の元へと旅立っていたのだ。結界を張った姿のまま逝った彼の側でレイクリスが祈りの言葉を呟くと、彼は安心したようにその身体を地面に横たえ、漸く長き休息を与えられたのだという。
聖スヴェルトはその最期から守りの聖人とされる。リヴァイレッドでは旅立つものに対し「聖スヴェルトの加護がありますように」の言葉と共に、鳥の羽根で作ったお守りを渡す風習も見られる。何故鳥の羽根かというと、多くの絵や歴史書に登場するスヴェルトの傍らにはいつも愛らしい鳥が描写されているからであろう、とのこと。この鳥に関しては諸説諸々があり、神の使いだとか、スヴェルトの家族の生まれ変わりだとか、耳を病んだスヴェルトに音を伝えていたなど色々なことが言われているが真相は判らない。それはただ、青空の戻ったリヴァイレッドに飛ぶ鳥が見たかったという、聖人の想いの現れというだけなのかもしれない。また、その守りの力を有した杖は彼の死後レイクリスによって「サンクチュアリ(聖域)」と言う名を与えられ、彼の代わりに今も愛するリヴァイレッドを守っている。
決して目立つ存在ではないが、とても心優しく慈愛に満ちた人物。建国戦争のさなかに耳を病み、音を聞き取ることが困難であったと伝えられる。
- サライが旅の仲間にして唯一心奪われた人。