1年程前からか、パラム王妃の傍らに常に寄り添うように立つ立派な青鹿毛の馬。実はこの馬こそがパラムの現大王、キエンスロットの現在の姿である。事の起こりはガルスからの独立戦争で勝利をおさめ、20年ほど平和な統治が続いたある日のこと。王家の元にパラムの英霊の一人が訪れた。英霊はキエンスロットの前に立ち、彼を12人目、パラム最後の英霊とせんがために迎えに来たのだと言う。普通であれば死後やってくる英霊の迎えが生前やってくるのは異例の事態であり、当然ながら王家は困惑した。彼は人間として国の統治に必要な人物であり、まだ死ぬわけにはいかなかったのだ。彼は英霊の誘いを断った。だが英霊は彼の言葉に耳を貸さず、次の新月に再び迎えに来ると行って去っていった。困ったのは王である。自分はまだ死ぬわけには行かない。だからと言って国の守り神たる英霊と戦うわけにもいかない…。彼は精霊に仕える巫女であり、誰よりも信頼する伴侶である王妃にこのことを相談した。それを知った王妃は彼に姿変えの魔法をかけた。神聖な動物とされる馬の姿をとることで、英霊が諦めるまでその目を誤魔化そうとしたのだ。それが故のこの姿なのである。王も最初はこのような方法に異を唱えたが、王妃と王は幼馴染であり、独立戦争を共に戦いぬいた戦友だった。方法はこれしかない、暫く辛抱してくれと涙ながらに訴える王妃カイルベッタを信用して、彼は全てを任せた。
だが国民に王が馬になった、そしてそれを行ったのが王妃だと言えるわけもなく、また長年国を守り続けた精霊や英霊への反感が出さないために、このことは王家とごく一部の信用ある配下にのみ知らされ、王は悪い魔女により姿をくらまされていると国民をたばかり、現在は王妃が政務を代行しながら事情を知っているもの総出で英霊の迎えを退ける方法を探している。しかしこの方法に弊害がないわけではない。王妃は彼に魔法をかけるために魔法の力を使いつづけ、徐々にその魔力を枯らしている。その命と共に。その証拠に彼女の紅茶色の髪は白髪に近づきつつあった。また、彼自身もあまりに長い間姿変えの魔法をかけられていると、徐々にその生き物として、つまり馬としての自我が強くなり最後には完全に馬となってしまう。そのような事情もあり王子をはじめ彼の子供たち、事情を知っている者たちは英霊に対抗する方法を必死に探してくれている。英霊たちの目を誤魔化したことが知れれば彼女らも英霊に罰を受けるというのにだ。英霊の罰は厳しく、英霊の罰を受けたものは悲惨な末路が待つという。そうまでして自分を守ってくれる愛する妻に、家族に、危険が迫っているのにそれでもなにもできない自分を、かつての英雄は歯痒く思っている。
望まれぬ生まれで幼い頃は孤独の人(カメハメハ)という字で呼ばれた。我慢強く人と距離を置く性格だったが指南役の女性やパラムの民と関わり変わっていく。現在は精霊と故郷と家族を愛する、強い精神の持ち主である。理由あって姿はこんなだが。
- カイルベッタが妻であり信頼できる戦友。
- プラムが友人の娘で王室御用達職人。
- コロイ、シモンが息子。
- クルハが娘。
- シュービルに一方的に絡まれている。